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問題を解決する最もシンプルなやり方が、黒のインクを二度塗ることだが、それでは時聞が倍近くかかってしまう。
そこで塗布時聞は同じにして、黒をもっと沈める方法はないかと設計者と相談したところ、あらかじめ、文字を印刷する部分にわずかな刻みを入れておけばインクがその分、深くまで定着するということが分かった。
方法論が分かっても、設計者に任せて帰っては、ダメだ。
どんな具合に、どんな濃さで黒文字が書かれるかを、デ、ザイナ!としてちゃんと意図したとおりに行われているかを確認するまでは、Gは帰らなかった。
そんな細部まで徹底したこだわりの積み重ねがプレイステーションのデザイン、質感、操作感などに、見事に結実しているのである。
しかも、それによる生産性の低下はなかった。
「テレビなどの確立した分野では、デザイナーはここまで深入りする必要はありません。
システムができ上がってますから。
しかし、プレイステーションの場合はまったく初めてのものですから、デザイナーの私がここまでコミットする必要があったんです」。
OとKの衝突Kの発想は、とにかく「作りやすき」最優先である。
そこで生産性と利便性とがぶつかったのが「キヤディ事件」である。
OとKの関係は、どこか頑固親父とやんちゃ息子という、親子のようなところがある。
どっちも非妥協的に相手とぶつかり、言い合う。
Oが「ディスクには、キャディを付けなさい」と言い出した。
キャディはディスクを保護するジャケットのこと。
信号面が露出している光ディスクは保護しなければならないという信念を、Oは強く持っている。
CD-ROMのデ-タディスクマンにキャディを付けたのも、MDにキャディを付けたのも、Oの指図だった。
DVDディスクについても、キヤディで保護すべきだと、言っていた。
Oの発想はか事故防止4だった。
手でベタベタ触ったり、子供がアイスクリームを付けたりというアクシデントを防ぐためには、キャディで保護するのが最適という考えである。
「ゲ-ムは子供が遊ぶものだから、CD-ROMが直接触れないようにするべきだと思ったんです。
指紋がつくと、再生が難しくなりますし。
アイスクリームなどを食べた手で、ディスク信号面を触ると、信号の読み取りができなくなり、サービスステーションにナンセンス・クレームが殺到してしまうことを心配をしました。
だから、キヤディを付けて保護しよう、と」(O)。
しかし、Kが猛反対した。
「Oさん、それだけはやめてください。
メディアの製造費が上がり、価格にハネ返ります。
それどころか作りにくく、使いにくくなってしまいます。
私は絶対、反対です。
いくらOさんの命令でも、ダメなものは、ダメです」と、一歩も譲らなかった。
メディアの価格をスーパーファミコンの半分にするというのがプレイステーションの使命であった。
ところが、そのストーリーは、CD-ROMの原価が安く、しかも簡単にリピートできることが前提条件となる。
CD|ROMの価格は徹底的に下げなければならないのに、キヤディを付けることによって、コストアップになり、製造にも時聞がかかる。
そうすると、市場の声を反映した俊敏なリピート生産も難しくなってしまう。
しかもユーザーにとっても、使いにくく、場所も取る。
確かに、アイスクリームには強くなるが、弊害の方がよほど大きい、というのがKたちの主張だった。
結局・・・・・・Oが折れた。
「キャディはあきらめよう。
しかし、他のCD-ROMを使ったプラットフォームや、音楽CDとはっきりと違いがでるような工夫をしなさい。
銀色のCDなら、どれも同じだからね」「分かりました」と言って、工夫したのがディスクを黒に着色したことである。
普通のCDは、アルミの蒸着層の反射がそのまま透明のポリカ-ボ、不イト板を通して銀色に輝くが、プレイステーションのディスクはどこから見ても真っ黒だ。
Oは今、述懐する。
「考えてみれば、任天堂さんはマスクROMにキャディの働きをするカートリッジを付けているわけで、差別化ということからすると、キャディはない方が違いが出るということですね。
K君ともめたが、リピート生産がキヤディがあるとその分遅れてしまうわけで、この件はK君の勝ちです。
私も認めましょう。
汚れなどによる読み取りミスのナンセンス・クレームも、意外にありませんでした。
すでにCDが登場してから十年以上たっており、親が子供にCDの使い方を教えていたんでしょうね」セガサターンへの値下げ誘発。
コストダウンのための仕掛けを、あらゆる面で画策したプレイステーションは、スタート以降、久Tの意思を体言し、劇的なコスト、ダウンを演じた。
ハードの部品点数が激減したことは前述したが、その総合的な効果として部品代金、工程数を総合した生産コストも劇的に下がった。
しかも、当初の少ない台数ベースでのコストではなく、急激に生産台数を増やした時のコストだから、その意味は大きい。
初代機の定価三万九八〇〇円の時は大赤字だったが、現在は、コストは当時の三分の一になった。
ここで最も戦略的なことは、それを全額収益にプラスさせるのではなく、価格低下の原資として活用したことである。
三年で実販価格はコスト低下の割合と同じ三分の一になった。
それをテコにゲ-ムマニアから一般へ、ユーザー層を拡大していったことは言うまでもない。
この側格の下げ方には、実はもう一つ、戦略的な狙いがあった。
それが、セガに対する値下げの誘発である。
段階的に下げたのは、セガにセガサタ-ンの値下げを誘発するための仕掛けでもあった。
一度に大幅に下げるのではなく、段階的に下げることで、暗一嘩に乗ってきやすいようにしたのである。
それは明らかに、セガのセガサタ-ンの高コスト構造に狙いを定めたものだった。
セガサタ-ンは、増築に増築を重ねたような構造であった。
Kは「各社から供給されたデバイスの集合で、コスト、ダウンにはかなり苦労するだろう」と予測した。
デザイナーのGは、「プレイステーションとは作りが対照的なことに、驚きました」と言う。
九四年一一月二二日、セガがセガサタ-ンをスタートさせた日、Gは早速、セガサタ-ンを買ってきた。
ボディを聞けて見て、びっくり。
ものすごく複雑な作りで、基板の上にたくさんのケーブルが這っていた。
いかに単純に、作りやすくするかを徹底的に追究していたGにとっては、信じられない構造だった。
これだけ見てもプレイステーションよりはるかに作りにくい。
セガサタ-ンの高コスト体質が分かったからには、戦略的に、そのポイントに狙いを定めた。
プレイステーションが値下げすれば、それに対抗するためには、セガサタ-ンも絶対に値下げせざるを得しかし、もともとがコストがかかる構造ゆえに、そのうちに赤字が雪だるま的に累積するはずだ・・・・・・。
案の定、セガは乗ってきた。
九五年六月にプレイステーションが一万円値下げしたのに対抗して、ソフトとハ-ドの組み合わせ価格砂二万円以上下げたキャンペーンセットを出し、その後、ハードも四万四八〇〇円から三万四八〇〇円に一万円下げた。
それからも、プレイステーションの段階的値下げに対抗し、セガサタ-ンは値下げで応戦してきた。
一時は、セ、ガの反攻がプレイステーションを打ち破った時もあった。
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